0. はじめに
はじめまして。株式会社データ・ワンでプロダクト開発部の吉田です。
広告の世界には、問われ続けている問題として「その広告を見た人は、本当にその商品を買ったのか」というのがあります。様々な広告や販促で効果は語られてきました。
これに対して私たちはオフラインの購買データと広告配信実績の掛け算で答えています。
この記事では、私たちがどんなデータを持っていて、どのような分析例でもって答えようとしているのか一例を示すことでデータの面白みに気づいてもらえたらと思いまして書いております。※以下の例は必ずしも提供しているものというわけではなく分析の一例としてご理解いただければと思います。
1. 会社とデータ紹介
データ・ワンは、小売の購買データをファミリーマートを中心にドラッグストアやディスカウントストアをID-POSを軸にデータ連携をして保有しています。
一般的には広告会社は「広告を届けること」を仕事にします。私たちの仕事は少し違っていて、購買という結果の側から逆算して、広告の設計を振り返る点にあります。誰が何をいつ買ったかが分かるなら、「誰に何を見せるべきだったか」も原理的には分かるはずだ、という発想です。
プロダクト開発部は、そのためのデータ基盤(Databricks / Delta Lake等)、分析エンジン、そしてプランニングツールといったアプリケーションまでを一気通貫で持っています。SQLとSparkを書く人、統計モデルを組む人、Next.jsでUIを作る人が、同じ問いの周りに座っている構成です。
2. データ・ワンが持っているデータ
私たちが扱うデータは、大きく3つの層に分かれます。
1) 購買データ。コンビニエンスストアを中心とした、会員IDに紐づくPOS情報です。
2) メディア接触データ。デジタル広告配信ログ、店頭サイネージの配信ログ、そしてテレビの視聴データ。それぞれ「誰に、いつ、どの広告が出たか」の記録です。
1)と2)の組み合わせが我々の特徴をつくっており、広告効果測定が難しいのは、たいていの場合「接触した人の集合」と「買った人の集合」が別々のデータソースにいて、両者を人単位で突き合わせられないからです。突き合わせられないから、期間比較や地域比較といった間接的な方法に頼ることになり、そこに交絡が入り込む。私たちはこの前提条件を構造的に外せる位置にいます。
3. ファミマTVのマーケティング観点での価値
ファミマTV(FTV)は、ファミリーマートの店内に設置されたデジタルサイネージのネットワークです。レジ前や店内で映像が流れる、あの面のことです。
このメディアは、広告の分類でいうと少し変わった位置にいます。
テレビCMのようなマス広告は、広く届く代わりに「誰に届いたか」が推定になります。デジタル広告は誰に届いたかが分かる代わりに、購買という行為からは物理的にも時間的にも遠い。ファミマTVは、マス的な到達(店内に幅広く届く)とデジタル的なログ(どの枠が、いつ、どの店で流れたか)の両方を持っています。
ただ、本当に特殊なのはそこではありません。
このメディアは、購買の意思決定が起きる場所そのものに置かれているということです。広告を見てから商品に手を伸ばすまでの距離が、数十メートル。時間にして数分。
広告効果測定という観点では、これは非常に恵まれた条件です。接触から購買までの間隔が長いほど、その間に他の要因(別の広告、口コミ、セール、季節)が入り込み、「その広告のおかげで買ったのか」が分からなくなる。ファミマTVでは、この交絡要因が入り込む隙間が構造的に小さい。
分析をする人間から見ると、これは"実験に近い状況が自然に発生している場所"なんです。
4. 分析例: 因果推論で、これから何が見えてきそうか
ここから先が、この記事でいちばん書きたかったところです。
先に断っておくと、この章に分析結果の数字は出てきません。効果がどれくらいあったか、どのカテゴリで効いたか、といった話は書きません。ひとつには、それがクライアントの資産だからです。そしてもうひとつ、より本質的な理由として、**この仕事のいちばん面白い部分は、結果ではなく問いの立て方にある**と考えているからです。
私たちがいま向き合っているのは、大きく3つの問いです。
問い1:見た人は、本当に買ったのか
標準的なレポートとしては配信した期間の対象商品の売上推移。配信店と非配信店の比較。接触者と非接触者の購買率を想定しますが、
さらに「では、次はどこに出せばいいか」「予算を1.5倍にしたら、効果も1.5倍になるのか」「この商品で効いたなら、隣のカテゴリでも効くか」という問いを想定します
これに答えるために因果推論という手法で考えてみます。この手法はいいかえると「あり得たもう一方の世界」を反事実(counterfactual)を仮定して考察する手法になります。
その理論に踏み込みませんが、見える分析例としては以下のような形になります。

この例では、店舗の軸と期間の軸を掛け合わせて群を4つに切ります。
配信店の配信前(A)と配信期間(B)の差から、その店舗で起きた変化を取る。同じことを非配信店(C→D)でも取る。そして、その2つの差をもう一度引く。差分の差分(Difference-in-Differences, DiD)です。
ここで非配信店が担っているのが、まさに反事実の役です。「配信していなかったら、この期間の売上はこう動いていたはず」を、実在する店舗の実データで代理させている。季節性や景気や同時期の他の販促は、非配信店にも同じように効いているので、二度目の引き算で相殺されます。
この設計にはひとつ前提が付きます。配信がなかったとしたら、両群は同じように推移していたはずだという仮定です。そしてこの前提は、検証できます。配信が始まる前の期間で、両群の推移が実際に平行になっているかを見ればよい(図2b の左半分)。
ここが、レポートと因果推論の分かれ目です。レポートは「起きたこと」を示します。因果推論は「起きなかった方を、こう置いた」という前提そのものを図として差し出す。だから推定した効果に、どこまで一般化してよいかという範囲が付いてきます。予算を振り替える判断に使えるのは、こちらの形です。
さらに、ID連携が効く条件が揃えば、店舗ではなく人の単位でも同じことができます。接触したIDの集合に対する反事実を、購買履歴の似た非接触IDの集合で作る(傾向スコアマッチング)。こうすると「この商品をよく買う層に、広告は何を上乗せしたのか」という形で答えが出ます。
問い2:その効果は、どこまで広がっていたのか
問い1が解けると、その隣にもうひとつ問いが立ちます。効果の範囲です。
店内で広告を見た人が、その店で買うとは限りません。その日は買わずに翌日、別の店で買うかもしれない。同じチェーンの別店舗かもしれないし、まったく違うチェーンかもしれない。
これを追いかけると、同じ案件から2種類の新しい情報が出てきます。
ひとつは、効果の届いた範囲。設置店で観測された購買の外側に、どれだけ購買が生まれていたか。ここが測れると、案件の評価に「設置店での売上」以外の項目が加わります。
もうひとつは、伸びの構成。設置店の売上が伸びたとき、それが新しく生まれた購買なのか、近隣店から移動してきた購買なのか。前者なら送客、後者ならカニバリゼーションで、チェーン全体に対する意味が変わります。
この2つ、集計した売上の増減だけを見ていると同じ観測になります。区別する軸が入っていないからです。

効果の距離減衰と、2つの競合する仮説
そこで距離という軸を一本入れると、両者が分かれます。波及なら、接触店から離れるにつれて効果は正の側から緩やかに減衰していく。移動なら、近隣店では効果が負に振れ、遠方に行くにつれてゼロに戻る。近距離での符号が、2つの解釈を識別するわけです。
ひとつは距離を使う経路。接触店からの距離に応じて効果がどう減衰するかを、空間的なモデルで推定します。もうひとつは距離を使わない経路。ID連携で「接触した人が、その後どこで買ったか」を直接追いかけます。
前者は店舗の位置関係から、後者は人の行動から、同じ現象に別々の側から近づいています。両者の結論が一致すれば、確信度が上がるということになります。
問い3:その他広告と重ねたとき、配分をどう変えるべきか
3つめは、予算配分に直結する問いです。
同じブランドがその他広告とファミマTVを同時期に出稿するケースは珍しくありません。このとき、両方に接触した人の購買率がいちばん高いという結果はよく出ます。重ねることに意味がある、という手応えは既にあります。
ここに反事実の考え方を持ち込むと、配分の話にできます。
その他広告だけで既に届いていた人に、店頭でもう一度当てたことの効果はいくらか。逆に、テレビが届いていなかった人に店頭が初めて届いたことの効果はいくらか。この2つが分かれると、次の出稿で「その他広告を減らして店頭に寄せるべきか」が推定量の比較になります。
その他広告IMPデータとの突合ができれば接近できます。接触パターンで4群に分ける——両方に接触、その他広告のみ、ファミマTVのみ、どちらにも未接触。そのうえで、それぞれに対する反事実を置いて比べるということが可能になります
締め
ここまで、3つの問いの立て方を書きました。
あくまで分析の1例をご紹介しましたが、我々は豊富なデータで様々な分析手法をさがし、日々開発しています。
5. 採用情報
データ・ワンではエンジニア・プロダクトマネージャーを募集しております。募集の内容は以下のリンクをご確認ください。
https://data-one.co.jp/recruit/recruit_dev.html